2021年3月4日木曜日

2-3-1 翼型の特性

    ヘリコプターはローターを回転して推力を発生させることで飛行します。ローターブレードは断面が翼型形状をしていて、これが推力を発生します。翼型が推力発生の要ですのでヘリコプターの性能を理解するには翼型の特性を理解しておく必要があります。今回はこの翼型特性について勉強しましょう。


翼型の一般的形状

  図は最近のヘリコプター専用翼型です。上のAK-080Aはマッハ数が比較的高い翼端側用で、下のAK-100Dはマッハ数が低い内側用です。翼型の最大厚さを翼弦長との比で表し翼厚比(thickness ratio)と言います。AK-080A8%、AK-100D10%の翼厚比です。これらの翼型は下面に比べて上面の反りが大きい形状をしています。このような翼型を非対象翼型と言います。従来は上下面が対象な対象翼型が捩りモーメントを発生しないために多用されていましたが、近年では性能向上を目指して最大揚力が大きく、且つ比較的高いマッハ数まで抵抗の少ないこのような非対称翼型を採用する傾向にあります。


細長い翼型の丸みを帯びている側を前縁(leading edge)、尖っている側を後縁(trailing edge)と言います。前縁から気流を当てると翼型には気流に垂直な方向に揚力L(lift)、気流に流される方向に抗力D(drag)および翼型を回転させようとするモーメントM(moment)3つの力(3分力)が生じます。


翼型の空力特性

  AK-080Aの3分力特性の風洞試験結果を見てみましょう。翼型の3分力は単位巾当たりの力で表現しますが、それらは空気密度ρ、翼型が気流を迎える角度(迎角 attack angle)α、気流の速度Vおよび翼弦の長さ(翼弦長cによって変化するので、そのままではそれらが異なるもの同士の評価が難しくなります。しかし、次のように無次元化すると迎角とマッハ数だけの関数になって、評価が容易になります。
   Cl=L/(1/2・ρV2c)
      Cd=D/(1/2・ρV2c)
      Cm=M/(1/2・ρV2c2)

ClCdCmをそれぞれ揚力係数(lift coefficient)、抵抗係数若しくは抗力係数(drag coefficient)、モーメント係数(moment coefficient)と称します。


1、揚力特性


  揚力は迎え角が小さい(ほぼ10度前後)範囲内では迎角
に比例します。その比例係数(傾き)を揚力傾斜と言いaと表記します。従って、迎角が小さいとCl=aα+Cl0と表現できます。aは翼型によって余り変わらずほぼ5.73/rad程度です。迎角がある角度に達するとClは最大になり、それ以上のαでClは減少します。これはその迎角ではもはや気流が翼型に沿って流れることができなくなって、剥離するからです。この現象を失速(stall)と言い最大揚力係数を与える迎角を失速角(stall angle)と言います。失速角は翼型によって異なりますが全てマッハ数が高くなると小さくなる性質があります。通常ブレードは失速角以内で用いるように設計しますが、部分的に失速角を越える領域が存在する場合もあります。


2.抗力特性

  抗力係数はマッハ数が低いと失速角以内では略一定の値で、失速後は急増します。マッハ数が高いと迎角が少し増えただけでも抵抗係数は増加します。


  3.モーメント特性

 
翼型が発生する空力モーメントは前縁を下げる頭下げモーメントのため、モーメント係数は負の値になります。抗力係数と同じように、マッハ数が低いと失速角以内では略一定ですが失速後は急増します。高マッハでは小さい迎角でもモーメント係数は増加する性質があります。このモーメントが過大になるとブレードが捩られ、操縦が困難になります。

2021年3月3日水曜日

2-2 エンジンの特性                                      2-2-1ターボシャフトエンジンの特性

   小型で軽く高出力、かつ振動が少ないと言う特徴[1]をもったターボシャフトエンジンの出現が、ヘリコプターの実用価値を飛躍的に高めました。現状ではこれが標準的動力として広く使われています。ターボシャフトエンジンの特性を理解しておくことが、ヘリコプターの理解に必要です。


ターボシャフトエンジンは大型ほど効率が良い  

 ターボシャフトエンジンは大型ほど馬力当りに消費する燃料が少なく、重量当りに発生する馬力が大きい特性を持っています。

ターボシャフトエンジンの要となるコンプレッサーやタービンの回転部分と、それらを取り囲むケースとの間の隙間は、エンジンの効率を落とす要因の一つです。できるだけ狭いことが望ましいのですが工作精度の制約があって、大型エンジンとの寸法比で小型エンジンの隙間を狭くすることができません。そのため隙間の割合は小型エンジンほど大きくなって効率を落とす原因となります。また、小型エンジンはタービンやコンプレッサーのブレードの寸法が小さいので、レイノルズ数が小さくなります。そのため流体力学的にも粘性抵抗が大きくなって、効率を落とす要因になります。


燃費特性

エンジン効率の指標の一つとして燃費特性を見てみましょう。下図は数種のエンジンの燃費特性(SFC)を比較したものです。SFCとはSpecific Fuel Consumptionの略語で、1馬力(HP)を1時間(Hr)発生し続けるのに要する燃料の量(lbs)です。単位はlbs/HP/Hrとなります。MKS単位系に換算すると1lbs/HP/Hr=0.454Kgf/HP/Hrとなります。


  小型ヘリコプターの代表的なエンジンであるロールスロイス250シリーズは、数百馬力の出力で、SFCはおよそ0.6 lbs/HP/Hr前後です。即ち、1馬力を1時間発生するのに約300gの燃料を消費します。これが大型のCH-47に使われる3,0005,000HP級のT55シリーズでは0.5前後に下がり、V-22ティルトロータ6,000HP級のT406では0.4 と、250シリーズの2/3になり、効率が向上しています。

尚、図には1,5002,500HP級で新しいT800MTR390T700も載せました。従来型のPT6T530.570.6であるのに比べて、これらは0.430.49とおよそ20%改善されていることが判ります。また、参考に載せた小型レシプロエンジンを250と比較すると、レシプロエンジンが35%ほど燃費に優れることが判ります。


重量特性

次に重量特性を見てみましょう。下図はエンジン出力と単位馬力あたりのエンジン重量の関係を示しています。



数百馬力クラスのエンジンでは1HP当り約0.4lbs(約200g)ですが、2,5004,000HPでは半分の0.2lbs(約100g)で済み、4,500HP以上では更に軽くなります。大型程軽くて高出力で高効率なエンジンであることが明白です。

尚、参考に載せた小型レシプロエンジンは1.31.8lbs/HP(600~900g/HP)と、小型ターボシャフトエンジンの4倍位重たいことが判ります。


 出力が温度、高度によって大きく変化する  

ターボシャフトエンジンは吸い込んだ大気に燃料を加えて燃焼し、高温高速のジェット噴流を作り出してそのエネルギーを風車であるタービンで受けて軸出力を発生する装置です。従って、基本的に出力は吸い込む空気の質量に比例します。下表は出力レベルの異なる2種類の250エンジンの吸入空気流量と馬力の関係を示します。毎秒1lb(450g)の大気を吸い込むと約120130HPの出力が得られることが判ります。


エンジン型式

最大出力

空気流量

流量当たり出力

250-C20B

420 HP

3.45 lb/sec

122 HP/lb/sec

250-C47B

813 HP

6.10 lb/sec

133 HP/lb/sec

 

大気は高空高温ほど薄くなります。従って、ターボシャフトエンジンの出力も高空高温ほど低下します。下図は250-C20Bエンジンの高度と温度による出力変化を示します。図には大気密度の変化に比例すると仮定した線も示しました。両者は概ね一致していることが判ります。

標準日(ISA)は海面上で420HPあったものが、20,000ft215HP(51%)まで落ち込みます。大気密度比が53%まで下がるからです。同様に+20℃高温日の海面高度では大気密度比が93%に低下するので、出力も380HP90%に落ち込みます。このエンジン出力の落ち込みはヘリコプターの性能に大きく影響するので、十分注意が必要です。



[1] ただし高価なことが欠点です。このためパーソナルユースを主要マーケットとする小型ヘリコプタではレシプロエンジンが使用されています。

2021年3月2日火曜日

2-1-2 高温日、低温日の大気の特性

 

前節で標準大気を見ました。海面上15℃の状態を基準として任意高度での圧力、密度を定めたものでした。しかし、真夏や真冬のヘリコプタの運用では、海面上でも15℃から大きく外れます。このため、標準日より温度の高い高温日、温度の低い低温日に対して大気条件を定めることが行われます。高温日、低温日の定義を理解しましょう。


高温日、低温日の定義  

高度0の海面上で大気圧はほぼ1気圧であっても温度は標準日と大きく異なることは良く経験することです。海面高度での圧力は1気圧として、温度を標準日の15℃(59°F)から変えたものが高温日、低温日という概念です。15を上回る日を高温日、下回る日を低温日と称します。

tを標準日との温度差として、

t>0 ;高温日(hot day)

t=0 ;標準日(standard day, STD day)

t<0 ;低温日(cold day)

となります。 

tとして良く使用される値は、±20℃ であり「標準日+20℃の高温日」(STD+20℃のhot day)等の言い方をします。


高温日、低温日の大気  

高温日、低温日の大気は標準日の式に温度⊿tの違いを入れて下記のようになります。

   t= 15+t-0.0065h                °C

 T= 288.15+t-0.0065h            °C

     P= 10,332(T/288.15)5.256            Kgf/m2

     ρ= P/287.04T                    Kgfsec2/m4


高温日、低温日の上空温度  

t=±20℃の高温日、低温日の大気温度と高度の関係は標準日のそれを、⊿tだけずらしたもので下図のようになります。


高温日、低温日の温度比、圧力比、密度比  

+20℃高温日、-20℃低温日の大気特性を上の式で求め、標準日の海面上の基準値との比を取って、図示したものが次の図です。


圧力比は高温日と低温日共に低空では差が少なく高空に行くに従って拡大するのに対して、密度比は低空で最大の違いが出て高空では差が縮小することが判ります。エンジン性能やヘリコプタの空力特性は空気密度に直接依存します。従って、ヘリコプターの性能・特性は低空程、高温日と低温日で差が出ることになります。低空はヘリコプターの主活動領域ですのでこの事実を認識しておくことが肝要です。

尚、±20℃の高温日、低温日は我が国や欧米でのヘリコプターの運用に略マッチしていますので国際的に多用されますが、中東諸国での運用にはマッチしません。遥かに高温環境での運用が要求されます。そこで米陸軍では独自に4,000ft、95°F(1,200m、35℃)の条件での性能要求を課しています。”高度1,200mで大気温度が35℃の条件で最低垂直上昇率が500fpm(2.5m/sec)以上であること”等の要求を出しています。



圧力高度Hpと高度hの関係

航空機の高度計は圧力を計測して算出する方式が多いので、高度を圧力高度Hpで表す場合があります。Hpとは標準日の圧力がその圧力と等しくなる高度のことです。従って標準日では圧力高度Hpは実際の高度hに等しいのですが、標準日以外ではHphとなります。非標準日のHphの関係式は次の式で与えられます。

    h = ((288.15+⊿t)/288.15)Hp

これを±20℃の高温日、低温日についてグラフで表すと次のようになります。


 

 

2021年3月1日月曜日

第二部 ヘリコプターの飛行性能はどのように定まるのか                         2-1大気の特性       2-1-1標準大気

  空中を飛行するヘリコプターは大気条件(密度、温度)によって性能・特性が変化します。従ってその性能・特性を理解し評価するには、大気についての知識が必要です。国際的な基準である標準大気について理解を深めましょう。


 標準大気を定める理由  

 気体である空気の密度は温度や圧力で変化します。高温では空気の分子運動が活発で、単位体積あたりの分子数が減って密度が下がります。また、高空より低空の方が圧力は高く、圧縮されて密度も大きくなります。

 このように高度や温度で大気の密度や圧力が変化し、それに応じてエンジンの出力や、ヘリコプターの性能も変化します。「ヘリコプターの性能は大気条件の関数である」、と言えます。しかしこれでは性能の表現や評価が定まりません。そこで航空工学の分野では標準大気というものを定めて条件を統一しています(ISA: International Standard Atmosphere 1964ICAO国際民間航空協定)。


標準大気の式  

これは海面高度で温度15℃(絶対温度288.15°C)、一気圧(1,013.25hP=10,332Kgf/m2)として、高度による温度変化の実測値(1,000mにつき6.5℃の低下)を基に、気体としての大気の状態方程式(理想気体を想定して温度、圧力、密度の間になりたつ関係式。P=ρRT)を用いて導き出された下記の温度、圧力、密度式です。Rは気体定数で287.04m2/sec2です。

    t=15-0.0065h                     °C

  T=273.15+t =288.15-0.0065h      °C

      P=10,332(T/288.15)5.256 = 10,332(1-0.0000225577h)5.256      Kgf/m2

      ρ=P/287.04T=0.12492(T/288.15)4.256    Kgfsec2/m4

 

ここでhmで表した高度、tTは大気温度と絶対温度、Pは大気圧力、ρは密度です。上式で任意の高度hにおける標準日の大気温度と圧力、密度が求められます[1]

 

海面高度における標準大気の特性(基準値)  

h=0とすると基準値である海面上の大気特性が求まります。それぞれt0T0P0、ρ0とすると、

    t0 = 15            °C

  T0 = 288.15       °C

  P0 = 10,332       Kgf/m2

  ρ0 = 0.12492      Kgfsec2/m4

 

エンジンの最大出力等の性能値は、この条件で表現するのが普通です。

 

温度比、圧力比、密度比  

任意の高度での温度、圧力、密度を基準値との比で表わしたものを、温度比、圧力比、密度比と言い、それぞれθ、δ、σと記します。標準大気では次のようになります。

  θ = T/T0 = 1-2.2558×10-5h

  δ = P/P0 =θ5.256

  σ =ρ/ρ0 = (P/P0)(T0/T) =θ4.256

 圧力比は温度比の5.256乗、密度比は温度比の4.256乗になることは興味深いことです。

 

標準大気の高度による特性変化  

下の図は上の式に従って標準大気の温度、圧力、密度の高度による変化を図表化したものです。





[1] 飛行試験、風洞試験等では試験時の温度と圧力を計測し、状態方程式ρ=P/8.314472Tで密度を求めます。

1-3 ローターヘッドの構成とローターの制御メカニズム

 

ヘリコプターのローターは、固定翼機の翼、プロペラ、エルロン、エレベータの働きを一つで行っています。ローターがヘリコプタを技術的に成立させる要です。このようなローターの働きがどのようなメカニズムで実現されているのか理解しましょう。


ローターヘッドの構造

図はヘリコプターのローターヘッドの典型的な構成です。各ブレードは、フラッピングヒンジ、フェザリングヒンジ、リードラグヒンジの3つのヒンジを介してマスト(ローター回転軸)に連結されています。これらのヒンジを持ってブレードを支えている部分をハブと言います。



フラッピングヒンジはブレードが上下にはばたく(フラッピング)運動を許し、フェザリングヒンジは、ブレードのピッチ(フェザー)運動の回転中心となり、リードラグヒンジはブレードが回転面内で前後(リード・ラグ)運動することを許します。ハブの構成は下図のようになっています。





フェザリング軸周りにはピッチホーンが、リードラグヒンジ周りにはリードラグダンパーが取り付いています。


 ローターの三つの働きとその実現方法

ローターはヘリコプターの飛行と操縦に重要な、以下の三つの働きをします。

   推力を発生して機体重量を支える。またその大きさを変化して上下運動を可能にする。

   ローターを前傾させて機体抵抗に抗する推進力を発生する。また、前後に傾けて、ピッチングモーメントを発生し機体の前・後の姿勢を変える。

   ローターを左右に傾けて横進力を発生させる。また。ローリングモーメントを発生し機体の左・右の傾きを変える。

 これらは全てブレードのピッチ角を変えて迎角を調節し、ブレードに発生する揚力の大きさとタイミングを制御することで行っています。次にそのメカニズムを見てみましょう。


 ロータピッチ変更のメカニズム

各ブレードのピッチホーンはピッチリンクを介して、ローター操縦機構であるスウオッシュプレートに接続されています。

スウオッシュプレートは上下2枚の円盤で構成され、上側はローターと一緒に回転し、下側は回転しません。これらは、球面ベアリングで支えられたジンバル機構で、マスト周りのどの方向にも傾くことができます。更に、球面ベアリングはマストに対して、上下できる構造をしています。下側スウオッシュプレートには油圧アクチュエータが連結され、操縦桿の操作で上下方向の移動と前後および左右へ傾くことができます。


 

上下運動によってブレードは回転位置によらずにピッチ角が増減します。これをコレクティブ・ピッチと言います。”コレクティブ”とは”一斉に”と言う意味です。

スウオッシュプレートの前後、または左右の傾きによってブレードのピッチは一回転に一回の割合でピッチが正弦波状に変化します。これをサイクリック・ピッチと言います。”サイクリック”とは”定期的に”と言う意味です。

次にこれらのピッチ変化によるローターの挙動を見てみましょう。


 ピッチとローターの挙動

  コレクティブ・ピッチを与えるとブレードは一斉に迎角が増えるので、推力が増えて遠心力と釣り合うまで、フラッピングヒンジを中心にして翼端が持ち上がります。この運動をフラッピングと言います。ブレードの回転軌跡は横から見ると丁度漏斗型(コーン)形状に見えます。それでこのフラッピング運動をコーニングと言います。ブレード先端が作る回転面はロータマストに垂直です。

   一方、サイクリック・ピッチを与えると、一回転の間に揚力が増える時期と減る時期が生じます。増える時期はブレードが上方へ、減る時期は下方へフラップします。結果としてローター面は傾き、同時にローター面にほぼ垂直な推力も傾きます。

尚、サイクリック・ピッチが最大になる位置と、フラップ角が最大になる位置は90度のズレがあり後者が90度遅れます。これについては講を改めて説明します。

  このように、ローターとはパイロットがフェザリングヒンジ周りのピッチ角を変更することで、フラッピング運動を起こさせてローター推力の大きさと向きを制御する装置であるといえます。

 尚、ここまでの説明にリードラグヒンジの役割は現れていません。これはフラッピング運動に伴って発生する翼弦方向の応力を低減するために強度上の要求から設けるもので、飛行や操縦に必要ではありません。これも後程改めて説明します。

2021年2月27日土曜日

1-2 ローターブレードの構造

 ローターブレードは固定翼機の主翼に相当するものですが、はるかに細長く回転に適応した独特の構造をしています。ローターブレードの構造上の設計要求とその実際を理解しましょう。

 

ブレードに働く力と構造設計上の要点

(静強度) 1枚のブレードには平均して、機体重量のブレード枚数分の1だけの空気力(揚力)が働きます。全備重量10,000lbs(約5トン)、4枚ブレードの中型ヘリコプタでは、平均2,500lbs(約1.25トン)の空気力が働きます。ブレードは細長いので、この空気力は大きな曲げモーメントを作ることになります。このため固定翼やプロペラのように余り変形させない剛構造にすると、ブレード根元付近の応力が過大になり、構造的に成立しません。そこでヘリコプタのローターブレードは柔構造として、揚力によってブレードが撓み、それによって遠心力が作る曲げモーメントを発生させ、空気力が作る曲げモーメントを相殺するように工夫されています。


 

 但し、ねじり方向(ピッチ方向)はブレード翼型の迎角に直結しているので僅かな変化でも発生空気力の大きな変化に繋がります。そこで極力ねじれないように捩じり剛性の大きな構造にする配慮が必要です。

更に、回転によってブレード付根で数トン~数十トンに達する強大な遠心力が働くので、これに十分耐えられる引張強度を持った構造にする必要があります。


 (疲労強度) このような静的強度要求に加えて、ブレード構造にとって最も重要な要求は疲労強度です。前進飛行中のブレードに働く空気力は、一回転中にその大きさとスパン方向の分布形状が大きく変化します。その為、回転中のブレードに働く荷重も複雑に変化します。ブレードは一秒間に数回転するので、この荷重は繰り返し荷重となってブレードの疲労強度に大きな影響を与えます。ブレードは十分な疲労強度を確保できる構造であることが最重要です。

 

(振動特性) 最後に、強度要求に加えて振動特性も重要な要求であることを忘れてはなりません。何故なら、ブレードの固有振動数がロータ回転数の整数倍に近づくと共振を起こすのでこれを避ける必要があるからです。固有振動数がロータ回転数の整数倍に近づかない特性を備えた構造にすることが求められます。


ブレード構造に対する設計要求

以上から、ロータブレードは空力形状要求を満たす成型性に加え、剛性、強度、振動に関する以下の5つの要求を満たす構造でなければならないことになります。

ⅰ)フラップ、リードラグ方向に柔な構造

ⅱ)捩りにできるだけ剛な構造

ⅲ)強大な遠心力による引張りに耐えられる構造

ⅳ)十分な疲労強度を有する構造

Ⅴ)ロータ回転との共振を避ける振動特性


ブレード構造の実際

  図は最近のヘリコプターの典型的なブレード構造です。疲労強度の確保、最適翼型形状成型の容易性等の理由からガラス繊維を主体にした全複合材製が最近の主流です。


ガラス繊維製D型中空桁(Dスパー)が主要構造で、遠心力や推力を受け止めてハブまで伝える役目を持ちます。その後方は翼弦方向の重心が後方に行きフラッター等を起こすことを避けるために、ノーメックスハニカム(複合材製のハニカム材)等の軽量な材料をコアとして翼型形状を作り、最後尾はガラス繊維テープ製の後縁材を通します。全体を±45度方向に繊維が走るガラスやカーボンの織物で覆った構造をしています。

ガラスやカーボン繊維は疲労強度が金属材料より優れ、要求ⅳ)を満たします。またガラス繊維は伸びが良く、これで作られたDスパーは十分しなやかに撓み、要求ⅰ)を満たします。


Dスパーと±45度方向に走らせた繊維を持つ外皮で全外周を覆った閉じ断面形状は、捻り断面特性が大きく要求ⅱ)を満たします。更にDスパーの肉厚を十分確保すると共にスパン方向に走る繊維を入れ、十分な引張り強度を確保することで、要求ⅲ)を満足させています。

最後に前縁付近に鉛の錘を埋め込み、軽量なノーメックスハニカムでもまだ取りきれなかった翼弦方向の重心バランスを取ると共に、スパン方向に錘の量を増減して固有振動数調整し、Ⅴ)の振動特性の要求を満足させています。


 

2021年2月26日金曜日

第一部 ヘリコプターはどのようにできているのか            1-1ヘリコプターの構成


  ヘリコプターにはローターやそれを動かすトランスミッション、エンジン、操縦系統のように回転したり上下・前後に動いたりするメカニズム部分がたくさんあります。このようにヘリコプターはメカニズムの塊で、これを理解するにはメカニズムの構成と仕組みを知る必要があります。そこでまず手始めに最も一般的なシングルローター・ヘリコプターSingle Rotor Helicopter:揚力を生み出すローターが一つの形式)の基本構成とその役割を勉強しましょう。後で主要構成品であるローターやエンジン、トランスミッション等のメカニズムも説明します。

ヘリコプターの基本構成  

 下は模式化したシングルローター・ヘリコプタの基本構成です。

(1) エンジン、トランスミッション、メインローター                 

機体中央上部にはヘリコプターの重要構成品であるエンジン、トランスミッションおよびメインローターが取り付けられています。
エンジンはヘリコプターの飛行に必要なパワーを生み出します。現在はジェットエンジンの一形態であるターボシャフトエンジンが主流ですが、小型ヘリコプタでは低価格なレシプロエンジンを搭載するものもあります。エンジンから出た回転出力はインプット・ドライブシャフトを介してトランスミッションに入ります。
インプット・ドライブシャフトはエンジン出力をトランスミッションに伝えると共に、組み立て公差や飛行中の荷重による機体変形で生じるエンジンとトランスミッションの微小な相互位置関係のズレ(これをミスアライメントと言います)を吸収する役割を負っています。インプット・ドライブシャフトとトランスミッションの間にはクラッチが挿入され、エンジン故障時にローターをエンジンとを切り離して自由回転させるオートローテーションを可能にしています。尚、レシプロプロエンジン機では始動時にもロータの接続を切ることで、重たいローターを回転させずエンジンを始動出来るようにしてあります。トランスミッションは通常3~5段のギアの組み合わせで構成された減速装置で、毎分6,60027,000で回転(6,600RPM27,000RPM)するエンジン出力を、ローターの回転に適した300RPM400RPMに落とすと共に、向きを90°変えてマストに伝える役割を担っています。
マストはブレードとハブで構成されるメインローターを、ほぼ水平面内で回転させる回転軸であると共に、ロータが生み出す推力やモーメントを機体側に伝える役割を担います。ヘリコプタの飛行に必要な全荷重を伝える非常に重要な構成品です。
ブレードは細長い翼で、回転することにより揚力を生み出します。最低2枚ですが4枚持つヘリコプタが多いです。最多はロシアのMil-268枚あります。枚数は機体重量を支える推力を生み出すのに必要な数と、振動及びコスト等の兼ね合いで決められます。一般に枚数が多いほど振動が少なくなりますがコストは高くなります。

マストはブレードとハブで構成されるメインローターを、ほぼ水平面内で回転させる回転軸であると共に、ロータが生み出す推力やモーメントを機体側に伝える役割を担います。ヘリコプタの飛行に必要な全荷重を伝える非常に重要な構成品です。
ブレードは細長い翼で、回転することにより揚力を生み出します。最低2枚ですが4枚持つヘリコプタが多いです。最多はロシアのMil-268枚あります。枚数は機体重量を支える推力を生み出すのに必要な数と、振動及びコスト等の兼ね合いで決められます。一般に枚数が多いほど振動が少なくなりますがコストは高くなります。

ハブは複数のブレードを束ねてマストに連結させる機構です。各ブレードで発生した揚力はハブに集められマストを介して機体に伝わります。又ブレードが必要とするピッチ(ブレードを長手軸周りに回転させて翼型の迎え角を増減させる運動)、フラップ(ブレードを回転面外の上下に羽ばたかせる運動)、リードラグ(ブレードを回転面内で回転方向に微小に前後する運動)運動の自由度を与える最も重要な構成品です。

尚、通常ロータは上から見て反時計回りに回転しますが、フランス系とロシア系のヘリコプタでは時計回りに回ります。 

() テールローター

 機体の後部にはテールローターが設けられています。トランスミッションから出力の一部を取り出して、テールローター・ドライブシャフトを介してギアボックスに伝わります。

ギアボックスは回転方向を90°変えて、テールローターを垂直面内で回転さーせます。中型以上のヘリコプターでは安全性を高める為に、垂直尾翼の上部にテールロータを設けて地上とのクリアランスを確保することが普通です。その時はドライブシャフトの方向を変換する為に、テールローター・ドライブシャフトの中ほどに中間ギアボックスが設けられます。

テールロータは小型のロータです。そのブレードが回転することで横方向の推力を発生します。これはメインロータの回転に伴って、反作用として機体が時計回りに回転するのを止める役割をします(これをアンチ・トルク機能と言います)。またその大きさを変化させることで、固定翼機の方向舵のように機首の方向(Heading)を変える働きもあります。更に、垂直尾翼と同様に機首を風向きに向けたり、ヨー運動(機首を左右に振る運動)を静めたり(ダンピング)する役割も持ちます。 

(3)ダイナミックコンポーネント

以上のエンジン、ローター、トランスミッション、ギアボックス、ドライブシャフト等がヘリコプターの心臓部であり、ローターおよびドライブシステム(Rotor & Rotor Drive System)と称します。ローターがヘリコプターの要であり、これとこれを駆動する装置の意味です。これらは固定翼機の主翼のように固定されたものではなく、全て1分間に数百回転から数千回転、エンジン等は1~2万回転位で動くものなので、ダイナミックコンポーネントとも言われます。

ヘリコプターはダイナミックコンポーネントが中心になって構成されています。ダイナミックコンポーネントは、動くが故の振動、騒音、疲労、不安定現象等の物理事象が密接に絡みます。従ってヘリコプタの設計ではこれらの事象を十分に検討してダイナミックコンポーネントを設計し、運用中も正しく整備することが重要です。


(4)構造、降着装置                                

ダイナミックコンポーネントの下には、それを支えると共に、人間や荷物を収容するキャビンテールブームがあります。燃料タンクもこのキャビン内に設けられます。キャビンやテールブームは構造とも言います。キャビンの下部には降着装置が取り付き、離着陸時の衝撃を吸収します。金属チューブの撓みを用いる簡単なスキッド形式や、衝撃吸収用油圧オレオに車輪を着け、地上走行が可能な車輪形式のものもあります。水上に降りる機体ではフロート式の降着装置を用います。

2-3-1 翼型の特性

     ヘリコプターはローターを回転して推力を発生させることで飛行します。ローターブレードは断面が翼型形状をしていて、これが推力を発生します。翼型が推力発生の要ですのでヘリコプターの性能を理解するには翼型の特性を理解しておく必要があります。今回はこの翼型特性について勉強しましょ...